市場拡大が続くアジアで、短期間で急成長を遂げているAnyMind Group。
(以下AnyMind)。2018年1月に、前身にあたるAdAsia Holdingsから名称を改め、組織変更を行った。各拠点の人材採用に不可欠な武器として使っているツールが、LinkedInだ。2017年1月から12ヶ月で 230名を採用し、そのうち63名はLinkedInを使って獲得している。AnyMindがLinkedInを使った背景や、どのように使いこなし、採用戦略を成功に導いているのかを、人事責任者に聞いた。

“各国で優秀な人材を採用、企業文化を浸透し、すぐに活躍してもらうことを実現していることが短期間で急成長している最大の理由だ”
- CEO兼共同創業者 十河宏輔氏

増え続けるアジアの拠点
人材の確保に複数の課題



 AnyMindは、「AI solutions that enable industries 」を掲げ、AI(人口知能)を活用したSaaSソリューションを展開するテクノロジー企業だ。本社をシンガポールに構え、バンコク、ホーチミン、ハノイ、ジャカルタ、香港、台北、上海、東京、プノンペン、クアラルンプールのアジア11都市に拠点を設け、急成長している。現在まで、クライアントやパブリッシャーのROIを最大化するため、「AdAsia Digital Platform」、「AdAsia Ad Network」、「AdAsia Video Network」、「AdAsia Video Production」、「CastingAsia」等をトータルソリューションとして提供してきた。

 特に注力している分野が、AIを活用した新しいSaaSテクノロジーの開発だ。AnyMind Groupでは2018年1月に、HRTechソリューションである「TalentMind」を発表。リクルーターと求職者とを繋げるサービスで、AI駆動のマッチングエンジンを導入している。SNSなどのオープンデータや履歴書の情報からスキル・コンピテンシー評価をはかり、求める人物像に最も適した候補者をスクリーニング。さらに募集部門で働く現役社員のデータも活用することで、就職後のパフォーマンス予測を立て、部門独自の採用モデルを組み立てることもできる。オープンデータを基にしたデータベースプラットフォームの構築も進めており、候補者と企業がAIによって自動でマッチングするサービス「TalentMind Matching」をリリースする予定となっている。「TalentMind」のようなHR領域への展開をはじめ、今後もこのようなAI駆動のマッチングエンジンを活用したSaaSソリューションの事業をさらに拡大していく計画だ。

2016年にCEO及び共同創業者の十河宏輔氏、COO及び共同創業者の小堤音彦氏の2名でスタートした同社は、2017年12月には 250名を超え、社員数が短期間で大幅に増加。2017年は売上高が四半期ごとに30%の伸びを示すなど、伸び盛りのアジア市場の中で、急速に成長を遂げているスタートアップ企業として注目されている。

 

 

アジアの主要都市で事業を急拡大するAnyMindにとって生命線と言えるのが、各拠点を支える人材の確保だ。しかし、「2017年1月の時点では、採用活動に複数の課題が生じていた」と、人事部採用責任者(Regional Deputy Head)の松山栞氏は話す。「当時は人事部が組織されておらず、各拠点のローカルのジョブボード(求人・求職サイトなど)を使った採用が大半であった。ただし、 応募数自体は多いものの、同社が求める各拠点のリーダーを任せられるような候補者は限られていた。急成長する中で、同社は応募者を待つ受動的な採用から、自社の企業文化に合う優秀な人材にプロアクティブにアプローチする方法に変更した。」

 また、人材を惹きつけるため、各拠点では、現地担当者が個別に採用ブランディング活動を実施していたが、この方法では発信するメッセージの統一性の維持が難しく、また、そもそもこれから進出する国には担当者がいないため、施策の実施が困難であった。そのため、会社としてより統一された企業イメージの発信を、今後進出する担当者の未だいない地域を含め、よりスケーラブルに効率的に行う手法を模索していた。

“応募を待つ受動的な採用活動から、自社に合う優秀な人材にプロアクティブにアプローチする方法が必須だと実感”
- Regional Deputy Head, Human Resources 松山栞氏
 

 

LinkedInを使って多国籍の人材をスカウト

 そこで、松山氏が着目したのがLinkedInだ。特にAnyMindでは、スカウトメール機能であるリクルーターを積極的に活用した。LinkedInにはアジア各国の優秀な人材がアカウントを開設し、自身の詳細な職歴や顔写真を掲載。他のビジネスパーソンとのつながりも可視化されている。つまり、それらの情報を見れば、アプローチすべき人物か否か、ある程度の判断が付くわけだ。

 松山氏によると、リクルーターを使った採用手法として管理機能の一つであるプロジェクトフォルダの有用性を挙げる。採用したいポジションが発生した場合、リクルーター内にプロジェクトフォルダを作成し、各国の採用担当者とリーダーである松山氏が共同でスカウト活動に取り組む。これにより、各国ポジション毎の候補者情報を共有し、候補者の質の維持や進捗管理が容易になる。また、グローバルプラットフォームであるLinkedInでは例えばタイからシンガポールの人材を検索し、スカウトメールを送るなども容易に可能だ。
「私はバンコクのオフィスに勤務していますが、オフィスにいながらにして、様々な国の人材にアプローチを送信し、進捗状況を一元管理できる点も大きなメリットです。特にこれから進出する拠点のリーダーの採用では非常に役に立ちます。」(松山氏)

 検索の方法は、求めるポジションや企業名、ロケーションなどでキーワード検索をかけるオーソドックスなやり方、もしくは、優秀な人材のつながりを辿って最適な人物を“発掘”する方法もある。後者の方法では候補者のLinkedIn上でのつながりを丹念に見ていくと、求めている人材に行き当たることも多いという。
 その方法で意中の候補者が見つかればスカウトメールを送るが、その文面は「候補者のどういったスキルが入社後に役立ち、どのように活躍できるか」など、具体的な内容を丁寧に盛り込む。そうして個々にカスタマイズした文面の方が、テンプレートの文面より返信率が高まるからだ。実際に返信率は 41%に上る。

結果

 実際にこのリクルーターの活用は採用活動に大きな成果をもたらした。特に松山氏が実感した利点は、LinkedIn経由で採用する人材の「質の高さ」だ。アジアの各拠点でビジネスを急拡大しているAnyMindにとって最も欲しい人材は、事業の立ち上げを任せられるマネージャー、シニアマネージャークラス。アジアではスキルが高い人材ほどLinkedInに登録する傾向があり、まさに、同社の人材採用戦略のニーズを満たす格好のツールとなった。

“LinkedInで探し当てた人材は「質が高い」。AnyMindにとって最も欲しい人材であるマネージャーやシニアマネージャークラスの採用を実現している”

- Regional Deputy Head, Human Resources 松山栞氏

 63名の人材をLinkedInで採用

確立した採用戦略の必勝パターン

 2017年、AnyMindはLinkedInでマネージャー、シニアマネージャークラスを中心に、人材の採用に次々と成功した。

その数は1月~12月末(入社ベース)で63名に上り、採用者全体230のうち、実に 27%がLinkedIn経由の採用となり、リファラル採用 に続いて2番目に多いチャネルとなった。また、 63名のうちリクルーターを使って採用に成功した例は 25名に及び、

「今では、各国拠点のリーダーを任せるキーパーソンをLinkedInのリクルーターで採用し、その後にメンバーを現地のジョブボードで集めるというのが、AnyMindの採用戦略の必勝パターン」と、松山氏は言う。なお、63名のうち、残り38名はLinkedInジョブスロットからの採用となる。

リクルーターInMailによる採用者数
25名

 

 また、AnyMindは企業活動を紹介するLinkedIn内の「会社ページ」「キャリアページ」にも力を入れ、一元化された情報発信によって、統一感のあるブランディングを図っている。
具体的には同社の企業文化の指針となるAnyMind Standardを基に各種情報を発信している。

 特筆すべきは、更新頻度が高く、好感が持てる投稿内容だ。洗練されたオフィスや社員の充実した働きぶり、プライベート、笑顔が溢れる社内イベント、社員旅行など、働きやすそうで楽しそうな様子を伝える写真、ビデオを、数多く掲載している。あるいは、求人情報の投稿では、同社のグラフィックデザイナーが描いたコミカルなイラストを載せるなど、遊び心も前面に出す。

 面接の際には各候補者から同社が発されたコンテンツを見て、興味を高めたというコメントが多く寄せられるという。