2023年5月
グローバル人材動向
日本版
グローバル人材動向
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働き方の変化に関するデータに基づくインサイト
労働市場の動向が候補者、従業員、職場に与える影響について理解を深めるために、LinkedIn Economic Graphとメンバーコミュニティの両方から取得したデータに基づくインサイトを紹介します。
採用動向
採用の落ち込みは全世界で続いています。
17ヶ国の数字から、この1年間で採用率が低下していることが判明しました。
* 季節調整済み。
調査方法: LinkedIn採用率 (LHR) とは、LinkedInメンバーのうち、新たな勤務先での就業開始月にプロフィール欄に新しい会社名を追加した人の数を、その国のLinkedInメンバーの総数で割った数です。最もタイムリーなデータのみを分析することで、月ごとの比較を行えるほか、メンバーがプロフィールを更新する際に発生しうる時間差も考慮できます。
多くの国で採用が低迷しているのに対し、いくつかの業種では配置転換 (社内異動) に増加傾向が見られます。
LinkedInが分析した19業種のうち16業種では、過去1年間に昇進およびポジション異動による配置転換 (社内異動) が増加しました。
* 詳しくは『2022年10月 グローバル人材動向』をご覧ください。
調査方法: すべてのデータは、2023年2月時点で集められた全世界のLinkedInメンバーのアクティビティを元に集計しています。ここでの配置転換 (社内異動) は、時期を問わず昇進や部署異動により従業員が同一企業内で新しいポジションに就くことを指します。まず起算日を決定し、過去12ヶ月間に100件以上の異動が発生した会社の社外および社内異動について、業種別配置転換 (社内異動) 率の中央値を計算しました。求めた値を起算日より前の12ヶ月間に発生した配置転換 (社内異動) 率の中央値と比較し、最後に全世界の業種別配置転換 (社内異動) 率の前年比の変化率を計算しました。
LinkedIn Chief EconomistのKarin Kimbroughは次のように語ります。
世界経済の減速に伴って労働市場では揺り戻しがさらに進み、これまで従業員が握っていた交渉力が再び会社側に移りつつあります。一方で多くの国や業種では、パンデミック以前の基準値と比べると労働市場はまだまだ厳しい状態です。こうした状況を受けて、実に特殊な時代になっています。
そんな中でも、LinkedInの新しい配置転換 (社内異動) データに基づくインサイトから、先行きに明るい兆しが見えてきました。最新のグローバル人材動向レポートで明らかになったのは、配置転換 (社内異動) によって従業員の定着が高まるということです。現時点では採用が低迷していますが、これから浮上する最大のビジネス課題は事業に必要なスキルを持った人材の発掘、定着、スキルアップなど、人材をめぐるものであることがあらゆる点から見て取れます。
Karinから人材リーダーへのアドバイス:
不確実で変化が続く状況を乗り切るには、効率的で公平性の高い労働市場を作り上げることです。そのためにはスキルを中心としたビジネスへと導いていく必要があります。
人材リーダーは、スキルを中心としたポジション設計やスキルに基づいた候補者採用と従業員配置、事業に今後必要となるスキルの習得支援などを率先して行う立場です。
配置転換 (社内異動) の動向
従業員は社内異動の可能性を探すより、現在の会社を離れることを検討する傾向にあります。
一部の業種では配置転換 (社内異動) が増加しているとはいえ、大半の従業員にとっては今でも第一の選択肢ではありません。
12ヶ国を対象としたLinkedInの労働人口における信頼感指数サーベイの回答結果では、配置転換 (社内異動) をキャリアの選択肢として考慮する傾向が低いことが分かります。
日本の従業員は社内で異動するよりも、社外での新たな機会を考慮する傾向が5.5倍高くなっています。
出典: LinkedInが実施した市場調査。
調査方法: 2022年12月3日から2023年3月10日にかけて、「現在の仕事に対する姿勢に一番近いものを次の6つから選択してください」という質問に56,000人のLinkedInメンバーが回答しました。この分析では、「現在の職場を離職するつもりである/したいと思っている」と回答した従業員数と、「現在の職場で新しいポジションに就くつもりである/就きたいと思っている」と回答した従業員の数を比較しました。LinkedInの労働人口における信頼感指数 (WCI) オンラインサーベイはLinkedInメンバーから収集したデータを基にしており、LinkedInメンバーと全体的な労働人口との相違については考慮していません。
実際に配置転換 (社内異動) を活用しているのは誰かというと、管理職に就く従業員とX世代です。
過去12ヶ月間に現在の会社で新しいポジションに就いたLinkedInメンバーを対象にしたグローバル分析から、次のことが明らかになりました。
一般従業員と比べ、管理職に就く従業員が社内で異動する確率は2倍高くなっています。
配置転換 (社内異動) 率が最も高いのはX世代で、その次にミレニアル世代とZ世代が続きます。
配置転換 (社内異動) 率が最も低いのは団塊世代です。
調査方法: すべてのデータは、2023年7月時点で集められたLinkedInメンバーのアクティビティを元に集計しています。ここでの配置転換 (社内異動) は、従業員が2023年2月までの12ヶ月間に同一企業内で (昇進や部署異動により) 新しいポジションに就いた場合を指します。配置転換 (社内異動) 率は、100件以上の異動があった会社のみを対象として中央値を算出しました。
LinkedIn人材開発担当VP (バイスプレジデント) のLinda Jingfang Caiは次のように語ります。
企業文化や柔軟な働き方などのすべての要素が同等であった場合、従業員は社内異動より社外での新しい機会を優先します。これは社外求人の方が見つけやすい上、昇給の見込みが高いことが原因です。たとえ社内ポジションを優先したとしても、社内採用はしばしばプロセスが面倒で意欲を失いかねませんし、他分野でも活用できるスキルを示せない場合もあるでしょう。加えて、外部採用者ほど給与が上がらなかった例も多いです。
現在のところ、労働市場はスキルより職歴を重視しています。それを裏付けるのは、配置転換 (社内異動) が成功したのは管理職に就く従業員やX世代であり、そのどちらも素晴らしい経歴の傾向があったことです。ですから人材リーダーが先頭に立って、職歴優先からスキル優先の評価にシフトさせていく必要があります。スキルを評価しやすく実務に活かせるものにし、スキルに基づいた平等な給与体系を取り入れていかなくてはなりません。こうしたステップを踏んでこそ、配置転換 (社内異動) の価値が引き出されます。
Lindaから人材リーダーへのアドバイス:
配置転換 (社内異動) を経験したことがない人は、その文化とプロセスについて次のような掘り下げた質問をしてみましょう。
社内での異動は推奨されていますか? 募集中の社内ポジションに応募する方法を従業員は知っていますか? 人材採用 (TA) 部門や人材開発 (L&D) 部門など、配置転換 (社内異動) に携わるチーム間で明確に業務分担されていますか?
従業員の価値観の動向
従業員が最優先する価値は、過去2年の混乱期を通じて一貫しています。
労働市場の変動と不透明な経済情勢にもかかわらず、仕事に求めるものを考える時に全世界の従業員が以下の3つを優先事項に挙げています。
日本では給与が仕事に求める最優先事項に挙がり、その次に影響力のある仕事、働き方の柔軟性が続きます。
日本の従業員が挙げる優先順位 (2023年3月)
給与
給与・福利厚生が充実している
給与
給与・福利厚生が充実している
影響力
やりがいと影響力がある仕事
影響力
やりがいと影響力がある仕事
働き方の柔軟性
柔軟な勤務体制 (働く時間や場所など)
働き方の柔軟性
柔軟な勤務体制 (働く時間や場所など)
しかし、急激な変動の真っ只中または変動から回復中の業界では、従業員の主な価値基準に変化が見られます。
蔓延する従業員の燃え尽き症候群から人材不足、事業の存続危機、大規模解雇などの混乱を最近経験した業種の実例では、従業員は仕事に以前と違うものを求めていると回答しています。
病院・ヘルスケア
燃え尽き症候群と人材不足の最中にあるヘルスケア業界の従業員は、トップ3の優先事項を充実させることで生活の質の向上を求めています。
小売、ホスピタリティ、外食産業
こうした現場で働く従業員は現在の会社でキャリアアップを求めており、それを確実に実現するためには幸福度を手放してもいいと考えています。
テクノロジー
このところ大量解雇が進んだテクノロジー業界では、従業員が雇用の保証改善とキャリアパスの明確化を求めています。
調査方法: 候補者が優先する条件は、LinkedInが世界のメンバーを対象に2022年8月から2023年2月にわたって毎月実施した『Talent Drivers』の調査に基づいています。
毎月のサーベイでは回答者に以下15項目の優先事項のランク付けを依頼しています。
給与
給与・福利厚生が充実している
ワークライフバランス
仕事とプライベートの切り替えに協力的
柔軟性
柔軟な勤務体制 (働く時間や場所など)
スキルアップ
有望なスキルの学習機会
昇進・出世
社内でのキャリア成長の機会
影響力
やりがいと影響力がある仕事
セキュリティ
安定性に優れている
満足感
従業員としての満足感と感動
上司
頼りになる上司
イノベーション
革新的なプロジェクトに関わる機会
リーダーシップ
上層部が掲げる明確な目標と統率
企業文化
協力的な社内風土
ミッション
自分自身の価値観に合う企業理念
ダイバーシティ
多様性のある人材が採用されている
人材
極めて優秀な従業員が揃っている
給与
給与・福利厚生が充実している
ワークライフバランス
仕事とプライベートの切り替えに協力的
柔軟性
柔軟な勤務体制 (働く時間や場所など)
スキルアップ
有望なスキルの学習機会
昇進・出世
社内でのキャリア成長の機会
影響力
やりがいと影響力がある仕事
セキュリティ
安定性に優れている
満足感
従業員としての満足感と感動
上司
頼りになる上司
イノベーション
革新的なプロジェクトに関わる機会
リーダーシップ
上層部が掲げる明確な目標と統率
企業文化
協力的な社内風土
ミッション
自分自身の価値観に合う企業理念
ダイバーシティ
多様性のある人材が採用されている
人材
極めて優秀な従業員が揃っている
LinkedInグローバル人材採用担当VP (バイスプレジデント) のJennifer Shappleyは次のように語ります。
流動的な求人市場にあっても、従業員は働く理由や場所、働き方を見直し続けています。今や従業員には、ほぼ揺るぎない3大価値があることが分かっています。皆が口を揃えて、雇用主に満たしてもらいたい基本的なニーズがあると言います。特に、柔軟な勤務体制の継続を従業員が強く望んでいることに組織やリーダーが着目することが大事ではないでしょうか。
まずはこうした基本を押さえてから、社内の従業員や候補者プールをじっくり観察してみましょう。彼らが会社に残る理由と新たな機会を求める理由が分かります。現在求められているのは、従業員と会社の価値観が十分に一致することです。
Jenniferから人材リーダーへのアドバイス:
従業員と会社の価値観のすり合わせは、組織が賛同する事柄を効果的に伝えることができた時にはじめて可能になります。
候補者と従業員の両方に向けて、戦略的に採用ブランドを構築しましょう。候補者はこの組織でどのように働くのか、自分が求めるものと一致するのかを知りたがっています。
従業員の成長とキャリアアップの動向
従業員がスキルを学習する企業は、定着率が高くなっています。
従業員がスキルを学習した企業では、3年後の定着率が7%近く高くなっています。
比較の詳細
調査方法: LinkedInが2022年に世界20ヶ国で、従業員数が500人を超える25,000社以上の企業を対象とし、3年後の定着に関連する要素に注目して行った調査に基づいています。
LinkedIn Chief People OfficerのTeuila Hansonは次のように語ります。
このインサイトはスキル優先の人材戦略、つまりスキルに基づいてビジネスと人材を結び付けるという方法が、従業員にも会社にも有益であることを示すさらなる証拠だと思います。
従業員は以前から、すでに持っているスキルや習得したいスキルに合った仕事を望んできました。従業員に成長の機会を提供すると組織に留まりやすくなることが、今ここで明らかになりました。
不安定なマクロ経済や労働市場から生じる課題に多くの人が対応を迫られていることでしょう。しかし、人材リーダーとしてスキル中心のビジネスを支援できれば長期的な成果につながります。社内に既にあるスキルや必要なスキルが分かれば、それに応じて従業員のスキルアップが行えます。そうすることで組織の求める俊敏さも、従業員が求める成長と変化も、両方を満たすことができます。
Teuilaから人材リーダーへのアドバイス:
スキル第一の人材戦略を導入するのは大仕事だと思うかもしれません。しかしこの新たなインサイトを見れば、その一歩一歩に意味があることが分かります。すでに組織全体での取り組みに力を入れていたとしても、たとえ従業員数が少ない場合でもスキルアップを図ることでビジネス効果を得られることをはっきりと伝えてください。
グローバル人材動向レポートの翻訳版はこちらからご覧ください。
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